エリック宮城ならぬ「エリック宮川」によるKindle本の危うさとは

2014年7月8日

なんだこりゃという電子書籍が出た。


『管楽器で高い音を出す王道テクニック(Kindle)』

あえてリンクははらない。著者の名は「エリック宮川」。吹奏楽をやっている人なら誰もが知るスーパートランぺッター、エリック宮城(ミヤシロ)と酷似している。Amazonの販売ページにはプロフィールが書かれていないので、どんな人物なのかはまったくわからない。ネットで検索しても、参考になるページはヒットしない。エリック宮城は、目の覚めるような超絶ハイトーンを吹く奏者としてもとても有名で、この本はそんな彼の特徴をうまく利用した、まったく無関係な赤の他人が書いた本。高い音を出せないと悩む金管奏者はとても多く、初心者でもラクラク出せる人もいれば、どれだけ練習してもまったく出せない人もいる。ハイトーンとはそういうものなのだ。その金管奏者の悩みを、エリック宮城に酷似した「エリック宮川」という名前を用い、『管楽器で高い音を出す王道テクニック』というタイトルで、Kindleで出した。

Kindleとは、簡単にいうとAmazonで売ることの出来る電子書籍で、誰でも作ることが出来る。出版社を通さず、自分で作って自分でAmazonで売れるのだ。しかも印税も紙より全然高い。そして、Kindle端末を持っていなくても、無料のKindleアプリをダウンロードすれば、iPhoneなどでも読むことが出来る。

ということを知らない人がまだまだ多い。わたしの発信力のセミナーでも、このことを話すとまったく知らない受講者も少なくない。「無名の一般人が自分で電子書籍を作れて、しかもAmazonで売ることが出来るんですか……!」といった具合に。この『管楽器で高い音を出す王道テクニック』は、多くの金管奏者が抱える「ハイトーンが出せない」という悩みと、エリック宮城風の名前(「エリック」と出てくる時点で、普通は宮城を連想する)、エリック宮城の代名詞でもある「高い音」が誰でも出せるようになると思わせる書名。この3点が見事に合わさっている。

Amazonの販売ページを見た瞬間、「おかしいな」と思う点はある。まずまっ先に「ずいぶん高いな」と思う。1250円という値段。電子書籍は100円や200円など、安価なものもとても多い(じゃないと現状ではなかなか売れない)。そして、「ページ数が少なすぎる」という点。わずか14P。なぜ14Pしかないのに1250円なんだと。そして、「出版社名が書いてなくておかしいな」と思う。通常は、個人で作った場合でも出版社名の欄に自分の名前を明記していることが多い。

ライターであるわたしが見ると、すぐにこのようなおかしな点に気づくのだけれど、普通はそこまで見ずに「エリックが書いたハイトーンが出せるメソッドだ!」と飛びついてポチッとしてしまう人もいるのではないだろうか。1250円しようが、14Pしかなかろうが、「エリックしか知りえないメソッドが書いてあるのでは」と勘違いしてしまう人も少なくなさそうだ。エリック宮城本人が、Facebookで「この本は自分とは全く関係ない」という旨を明記している。

ひどいことをする人がいるものだな…と思ったのと同時に、誰でも作れるKindleだからこその危うさを感じた。同じような事例が、今後も出てくるのではないだろうかと。出版社だったら、こんな企画はまず通らない。エリック宮城本人ならともかく、「エリック宮川」という酷似した名前でこのテーマなど、通る訳がない。出版社ではなく個人で出せる電子書籍だからこそ、こういうことも出来てしまうのだなと。「騙されたほうが悪い」といわれればそれまでだけれど、エリック宮城氏本人が困っているし、こういうえげつないことはなんだかなぁ…と思ってしまう。

今後、このような事例が増えないことを祈るのみ。


【お知らせ】
・梅津有希子のTwitterはこちら
・最新情報はこちら

関連する記事

コメントを書き込む

必須入力

必須(公開されません)

任意