1枚の写真が持つ力とは。『吹奏楽の星』2014年度版を読んで

2014年12月16日

発売中の『吹奏楽の星』(2014年度版)、ページをめくるたびに胸が熱くなる。第62回全日本吹奏楽コンクールをまとめた記録。

『吹奏楽の星』(2014年度版/朝日新聞出版)
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=16529


表紙は淀川工科高校のホルン女子

白ブレ×蝶ネクタイ(ボウタイ)というユニフォームの学校はけっこうあるのだけれど、表紙を見ただけで淀工とわかる。なぜなら、吹部女子は全員ベリーショートという決まりだから。昔からずっと。いつからかわからないけれど、少なくともわたしが高校生の頃の20年前は、既にみんなこういう髪型だった。

凛とした眼差しがカッコいいね。こっちまで緊張して来る。

わたしは、ページをパラパラとめくってこの写真にくぎづけになり、何度見ても泣いてしまう。


舞台袖で祈る女子高生

この写真は、コンクール主催団体のひとつ、朝日新聞のカメラマンさんじゃないと撮ることができない写真。コンクールには記念撮影を撮ってくれる業者さんがいて(コンクールのパンフレット広告でおなじみの、エーコーフィルムプロダクションとかね)、全国各地のコンクールを巡回している。業者さんは、舞台袖まではついてこない。オフィシャルカメラマンの朝日新聞だから、舞台袖まで追うことができる。でも、この瞬間に気づいて切り取ったのが、ほんとうにすごいと思った。

この写真はおそらく、コンクールメンバーになれなかった補欠の生徒。舞台袖で、仲間たちの最高の演奏を祈っている姿。「今までで一番いい演奏ができますように」「悔いのない演奏ができますように」「ミスをしませんように」などと思いながら、心から祈っていたのだと思う。

札幌白石高校時代、コンクールメンバーとして普門館のステージで吹いたけれど、初めて本番の演奏を舞台袖で聴いたのは2011年のこと。母校が全国大会に出場し、『青空エール』の取材で舞台袖まで追った。そして、まさにこの女子生徒のように、「無事吹き切れますように…!」と、祈る想いで聴いていた。

なので、この写真はめちゃくちゃ響くし、よくぞこの瞬間を切り取ったなぁ……と思うのだ。

わたし自身もいま雑誌を作る仕事をしているけれど、1枚ですべてが伝わる写真には心が震えるし、なんの説明も文章もいらない。

この写真が見られただけでもほんとうによかった。

武生商業や近大付属、東海大高輪台など、実力校の密着取材ももちろんグッとくる。「こんな雰囲気の部なんだな~」「楽しそうな先生だな~」などと、日常の様子を知ることが出来る。

作曲家の中橋愛生さんのインタビューは、まさにその通りだと思った。近年全国大会の自由曲は、スミスやスパークが人気だけれど、
「一見好まれているように見えますが、実はほんの一握りだと思うんですよ(中略)地区大会レベルまで広げたときに、スミスっていうのは少ない。極端に少ない作曲家です」。

ほんとうにその通り。あの難曲を吹きこなせる学校がどれだけあることか。次の次のページに、「心一つに、超絶技巧に挑むスミス、スパーク人気の秘密」というコラムがあるので、ぜひ併せてご一読を。

現在、日本の多くの中高吹奏楽部の部員は、全国大会メンバー定員の50人や55人に満たない。全然満たない。

「吹奏楽のリアルな姿は、地方にある」

「よくぞズバリと言ってくださいました……!!!」と思った。コンクールは全国大会のメディア露出が多いから一番注目されているけれど、それこそ、全国を目指せる学校なんて、めちゃくちゃ少ないんだよね。

などと、近年の吹部事情を思いながら読んだのであった。

全国大会では中学の部の審査員で、高校の部も全校の演奏を聴いた、サックス奏者長瀬敏和さんの解説も素晴らしかった。あえて、“金賞以外”の団体にスポットをあてている。「銀や銅だったバンドの演奏が、音楽的に劣っているとは全く思いませんでした」。

もう、高速でうなずいた。

などなど、夏から秋の熱すぎた数カ月を、瞬時に思い出したのであった。

たくさんの現役中高生やお父さんお母さん、OBOGにも読んでもらいたい一冊です。


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