『吹部!』(赤澤竜也)読了。いろいろリアルで驚いた。
2013年9月1日
弱小吹奏楽部が全日本吹奏楽コンクールを目指す青春小説
『吹部!』(飛鳥新社)、一気に読んだ。
ぱるるも吹奏楽部だったんだよね
吹奏楽部が舞台の小説や漫画ってけっこうあって、
これまでにもいくつか読んでみたけど、
どれもしっくりくるものがなかった。
(自分が監修している『青空エール』くらい)
「弱小吹奏楽部が全国大会を目指す」という設定のものも多いんだけど、
わたしが読んだものは、どれもあまりにもファンタジーすぎて
(まぁ小説や漫画だから当たり前なんだけど)、
中高時代に全国大会の厳しさを経験している身としては、
「こんな設定ありえんわ~」と途中で冷めてしまって
最後まで読み切れたことがない。
でも、この『吹部!』は違った。
奥付のクレジットに「企画協力」として
東京都立片倉高校と、大阪府立淀川工科高校の名があり、
読む前から「ムムム?」と思った。
淀工といえば、
ブラバン甲子園! 大阪桐蔭、愛工大名電、常総学院。甲子園における野球応援とは?
でも書いた、丸谷明夫先生である。
吹奏楽界のチョモランマである。
片倉高校は、全国大会金賞常連校。
わたしが現役の頃、東京都代表といえば
都立永山高校と関東第一高校だった。
時代と共に、吹奏楽部の勢力図も変わる。
特に、顧問の先生に異動がある公立の中高は、
残念ながら先生が代わった途端に弱くなってしまう傾向が強い。
私立は先生が代わらないので、何十年もずーっと強い学校も多い。
今、東京都代表といえば、
東海大学付属高輪台高校、駒澤大学高校、そして片倉高校が常連。
「永山高校、さっぱり見なくなっちゃったなぁ……」
と、常々思っていた。
かつて一緒のステージに上った学校を見かけなくなるのは、
なんともさみしく、切ないものなのだ。
クレジットを見て、同書を読む前から
「これは実話ベースなのかも」と思ったのだけれど、
読み終えて確信した。
これは、片倉高校と永山高校の話だったのだ。
片倉高校の馬場正英先生は、
永山から片倉に異動していたことを今さら知った。
ああそうか……、そうだったのか……!!!
自分の中で、一気にすべてがつながった。
うちの本棚にあった『なぜ彼らは金賞をとれるのか』(ヤマハミュージックメディア)
を読み返してみると、馬場先生が『吹部!』で出てくるストーリーと
ほぼ同じことを、インタビューで話されていた。
先生が強豪永山から片倉への異動が決まったとき、
残された永山の生徒はさぞショックだっただろう。
そして、部員がたった数名しかいなかった片倉に辞令が下った先生も、
最初はきっと、愕然としたんじゃないかと思う。
公立なので異動は仕方ないことだけど、
地元北海道の場合、結果を残した先生は次の異動も優遇されることが多いので、
珍しい辞令だなあ……と思ったり。
部員集めの苦労や、先生のポケットマネーで楽器を買うところ、
コンクール本番前に前歯を折ってしまうトランペットの生徒。
『なぜ彼らは金賞をとれるのか』と合わせて読むと、
すべて実話ということがわかる。
馬場先生は、前任校の永山時代、全国レベルに育てるため、
吹奏楽の強豪校を片っ端から見学し、顧問に話を聞き、
独自に研究を続けたという。
先生が訪れた強豪校の中に、習志野、淀工、精華女子、
そして母校札幌白石の名があった。
あぁぁ……。白石にも来てたんだ……。
あの音楽室に馬場先生、来てたんだ……(泣)。
もちろん、小説なのでファンタジーも織り交ぜてある。
でも、限りなく実話に近いファンタジーだと思う。
「なんでこんなに共感できるんだろう」と思ったら、
自分とリンクする部分があまりにも多いからだった。
『吹部!』、軽妙な文章ですらすら読めた。
ところどころ文体がツボな部分もあり、要所要所で笑えた。
「これは大阪市音楽団のことだな……」
という描写があったり、いろいろリアル。
全国の吹奏楽部の中高生やOB・OGは、
この本を読んでどのように感じるのかな。
9月21日(土)は、第53回東京都吹奏楽コンクール。
チケットめちゃくちゃ激戦だけど、聴きに行きたいな。
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