中止に追い込まれた三ツ矢サイダーの吹部CMは、どうすれば問題なかったのだろうか。

2017年5月2日

少し前の話題だけれど、ずっと気になっているので書いてみる。

4月18日に朝日飲料の公式サイトで放送中止が発表された、「三ツ矢サイダー」の新CM、「僕らの爽快」編。俳優の神木隆之介さんと女優の芳根京子さんが出演するCMで、トランペットを練習中の芳根さんの背中に駆け寄ってきた友人がぶつかるシーンがあり、公開されるやいなや、SNS上で批判が殺到。プロトランペット奏者や楽器経験者から「危ない」「唇にケガをする」などの指摘が相次ぎ、中止になったというものだ。

うーん…。たしかに危ない。トランペットに限らず、これはどの楽器にもいえる。たとえば、わたしが吹いていたファゴットだと、「ボーカル」や「リード」というパーツが喉に突き刺さる可能性もある。というか、後ろから押されたら確実に刺さって流血だなこれは…。


銀色のストローみたいなパーツが「ボーカル」。
ボーカルの先端についているのが「リード」。ちなみに先端はけっこうシャープ。

CMでもその他の映像関係でも、昨今の、「クレームがきたら即中止」という流れもいかがなものかとは思うし、何でもかんでもクレームばかりつけていたら、表現の自由が狭まってしまうのではないかと思うこともある。しかし、今回のCMに関していえば、楽器経験者だったら誰もが「いやー、これは危ないよ…!」と思うはず。でも、CM撮影の現場でそんなことをいえるわけもないよなぁ…という事情もわかる。

映画「青空エール」で、初めて監修の仕事をしてわかったことは、監修者が撮影現場で何でもかんでも口出しできるものでもない、ということ。

ものすごい人数のスタッフがいて、長い時間をかけて準備を重ねてきたそれぞれの役割があって、セリフを覚えてきている俳優さんたちがいる。

そんな中、現場で撮影内容やセリフを変更するということは、基本的にはありえない。撮影期間は限られており、「この日はこの部分を撮る」というスケジュールが全部決まっているので、急な変更で撮影がおしてしまうと、どんどんあとが大変になってしまう。

というわけで、監修者は、現場で「それは違います!」みたいなことにならないよう、台本の段階からチェックを頼まれる。

この台本も、何度も修正やチェックを重ねて、脚本家は10回以上書き直していたりする。

映画の監修は、出版社でいうと、校閲的な役割なんだなと思った。

吹奏楽的に、おかしなセリフや表現はないか。曲名などは間違っていないか。問題のある部分はないか。

わたしが映画の撮影現場で具体的に修正したのは、

・楽器を持って全力で走らない=これは吹奏楽部的にNG。転んだりしたら大変。ケガするし楽器は壊れるし。早歩き的な小走りに修正。

・合奏前の音出し中に「整列!」と叫んでも聞こえないので、手をパンパンと叩いて吹くのをやめさせる。

・黒板に書いてある「今日の合奏=アルメニアン・ダンス パート」を「アルメニアン・ダンス パート2」に修正=「アルメニアン・ダンス」には、パート1とパート2がある。黒板担当の美術さんは当然ながらそこまで知らないため、わからないまま書いた曲名を正しく修正。結果的に映ってなかったけど笑。

などなど。忘れたけどほかにもいっぱいある。でも、どれもセリフやシーンの変更には支障のない修正。もっと大きな修正は、台本の段階で済ませている。それも、吹奏楽関係者が見た時に「今のありえないよね〜」「変だよね〜」と思われないように。

というわけで、三ツ矢サイダーのCMの場合は、撮影前の絵コンテの段階で吹奏楽関係者のチェックがなければ、あのクレームは防げなかったということだと思うのだ。

絵コンテに、トランペット女子に後ろからぶつかるシーンがあれば、その時点で「これは危ないので奏者的には絶対にNGですよ」と吹奏楽関係者が伝えていれば、ああいう構成にはなっていなかったのではないかと思う。

プロのトランペット奏者に見せるまでもなく、吹奏楽経験者数人にでも意見を聞けばよかったのになぁ…というレベルのこと。きっと、金管経験者だったら、「あー、これは唇ケガするかも」、木管経験者だったら、「後ろから押されて、リードが歯にあたって欠けたりしたらキレるかも!」などと、生の声が聞けたんじゃないかと思う。

ここ数年、吹奏楽を題材としたコンテンツがちょっとしたブームなだけに、ついシビアに見てしまう。

でも、これって、吹奏楽コンテンツだけに限らず、スポーツものでも医療ものでも、どんな題材にでも通じることだと思うわけで。

映画でもCMでもドラマでも、視聴者が共感すれば、すぐにSNSで広まって大きな話題になり、大ヒットにつながる。一方、「なんか違うんじゃない?」「ちょっとおかしくない?」と思われれば、即SNSで突っ込まれ、中止に追い込まれる時代(恐ろしや…)

だからこそ、「こんなもんでいいか」「だいたいでいいだろう」ではなく、「本物」の演出が求められている時代だと思うのです。

思ったことは以上です!


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