今の自分にめちゃくちゃ刺さる。『「ない仕事」の作り方』(みうらじゅん)/文藝春秋

2015年12月16日

文藝春秋の新刊案内を見て、まっさきに気になった本。さっそく読んでみたら、今の自分に響く部分がありまくりで、めちゃくちゃおもしろい……!

『「ない仕事」の作り方』(みうらじゅん)/文藝春秋
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/1639036900000000000Q


「bills」でパンケーキと白ワインをたしなみながら、みうらじゅん

「マイブーム」「ゆるキャラ」などの名付け親としても知られるみうらじゅんさん。すっかり定着してあちこちで普通に使われている言葉だけれども、生み出したのは彼なのだ。

みうらさんは今年でデビュー35周年。1980年に漫画家としてデビュー。漫画やイラストにとどまらず、エッセイストやミュージシャンとしての顔も持ち、長年の間、第一線で活躍し続けている。

「マイブーム」や「ゆるキャラ」以外にも、「親孝行」「仏像」など、誰も目を付けていなかったことに注目し、世に送り出して定期的にブームを作り出す。ジャンルにとらわれずに新しいことを仕掛け続け、常々すごい人だと思っていた。まさに、尊敬するフリーランサーのひとり。本書は、デビュー35周年記念出版でもあるのだ。

本書を読んで、感銘を受けた部分は数知れず。

子供のころから仏像が大好きで、小学生のときに仏像スクラップを作っていたという。それがのちに、いとうせいこうさんとの「見仏記」につながる。

みうらさんいわく、「子供のときからの『好き』の貯金」が、今の仕事に大いに生きているそうで、つまり幼少期から今まで、1mmもブレがないのだ。

世の中には触れていけないと勝手に思い込んで、自主規制してしまいがちな世界があります。しかし、伝統を守るのもいいのですが、古い考えに縛られすぎて、いいものが多くの人に伝わるのを邪魔してしまうこともある。

まったくもって、おっしゃる通り。これは、当てはまる分野がほんとうにたくさんあると思う。


小学生のときに作っていたという学級新聞、「ケロリ新聞」

小学生でもう作風が完成しているのがすごい。

いろいろなことを手掛けているみうらさんは、肩書きを求められるときには「イラストレーターなど」と名乗っているという。わたしは「なるほど!!!」と膝を打ちまくった。

「そうか、わたしも『ライターなど』と名乗ればいいのか!」と。

わたしが今まで出してきた本は、どれも見事にテーマがバラバラで、まったく統一感がない。
たとえば、

『吾輩は看板猫である』
『終電ごはん』
『ミセス・シンデレラ 夢を叶える発信力の磨き方』
『だし生活、はじめました。』

など。そして、来年の夏に刊行予定の本は、高校野球のブラバン応援本。これまた今まで出してきたどの本とも関係ない。

でも自分の根っこはまったくブレず、ライターなのだ。自分がおもしろいと思ったことを、メディアを問わず伝えたい、というだけのこと。

よく、オリジナルな肩書きをつけて、ライバルとの差別化を図りたがる人がいるけれど、結果的に何をしているのかよくわからないという人は少なくない。その肩書きが仕事内容をズバリいい表していればいいけれど、みうらさんのようにいろんな仕事を手掛けていると、ひとつの肩書きではおさまらないだろう。

みうらさんの事務所では、スタッフ募集をしていなくても、たまに「雇ってほしい」と履歴書が送られてくるという。
志望動機でもっとも困るのが、「私もみうらさんみたいな仕事がしたいです」という一文。

そう書いてしまうことがアウトだと気づかない時点で、みうらじゅん事務所で働く適性がない。

私は一人で十分。二人いるとうるさいくらいです。

とご本人がおっしゃるとおり、みうらじゅんは一人で十分なのだ。
自分がやりたい仕事がないんだったら、自分で作るしかない。

以前、『CREA』の親孝行特集で、みうらさんにインタビューしたことがある。事務所で働くみうらさんを初めて見て、正直ものすごく驚いた。

机には資料や校正のゲラが山積みで、スタッフにテキパキと指示を出している。まさに「分刻みのスケジュール」のようなめまぐるしさで、その光景は、「出来る男」そのもの。

こう言っては何だけれど、適当さやいい加減なところは微塵もなく、ものすごくきっちりしているのだ。長髪にサングラスで「好きなことだけしているゆるい人」だと思っている人がいたら大間違い。めちゃくちゃ「ちゃんとしてる人」なのだ。

本書を読むと、みうらさんが長年の間活躍し続けているのは、地道にコツコツ努力しているのがよくわかる。

「ああ、ゆるキャラいいね~。今度番組で特集やってみよっか~」

とメディア側からホイホイ声がかかるといったノリではまったくない。すごい地道な積み重ねがあったからこその、今なのだ。

ないものを世に出し続け、これは本当にウケるのか、観客は喜んでくれるのかと不安になったとき、人一倍心配性というみうらさんが、必ず唱えるという呪文、「そこがいいんじゃない!」

思わず「bills」で白ワインを吹き出しそうになったが、これってほんと大事なことだなと思った。自分で自分を信じられなくて、一体誰が信じてくれるというのだ。言い聞かせることって大切だ。

わたしも不安になったときには、ぜひ心の中で唱えてみようと思う。

すらすらと読めてとてもためになる、素晴らしいビジネス書。というか、普段ビジネス書ってほとんど読まないけど、うん、こういうのが本当に人のためになるビジネス書なのではないかと思う。

ものづくりや企画畑の人には、特に参考になることがたくさんあるはず。

おすすめです!


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